DON'CRY(ドンクライ)

アニメやマンガ、ゲームに小説、音楽など、「作品」によって孤独から救われて生きている人のためのメディア

読者インタビュー。孤独な僕らがアニメやマンガに惹かれるワケ。

f:id:don_cry:20170806135223j:plain

生きていれば、身を裂かれるような孤独を感じるときもある。でも、そんなときに寄り添ってくれたのは、誰かが創り上げた作品だった。

本企画では、そんな彼らにインタビューをし、彼らはいかにして孤独と立ち向かったのか、救われた作品を尋ねていく。
今回僕らは、都心から少し離れた場所で父親とくらすYくんのもとへと向かった。アニメや漫画が好きだというYくん。話を聞く中で見えてきた彼の人生は、決して楽なものではなかった。

しかし、そんな彼だからこそ語れる、彼だけの「好きな作品」があるはずだ。

f:id:don_cry:20170806135429j:plain
小降りの雨の中、編集部は彼の自宅へ向かう

彼は、我々を自室へ迎え入れてくれた。

f:id:don_cry:20170806135432j:plain
大きな目がチャームポイントのYくん。部屋からは彼のこだわりの強さが伝わって来る

——では自己紹介をお願いします。

Yです。年齢は25歳で、今はスーパーの精肉コーナーで肉を切る仕事をしています。両親は中学のときに離婚して、今は父親と暮らしています。

——部屋にマンガやアニメがちらほら見られますね。やはり好きなんですね。

最近は仕事が忙しくてマンガやアニメに費やす時間もなくなってきたのですが……でも今期アニメだと13作品は毎週チェックしていますね。仕事の日はだいたい、家に帰ってきて、アニメ消化して終わりって感じです。

 

「奴隷」と呼ばれていた中学時代

f:id:don_cry:20170806135435j:plain

——早速なのですが…Yくんは、これまで生きてきて孤独を感じることはありましたか?
孤独を感じるのは常ですよ。人はどうあがいても分かり合えない存在だから(笑)

——分かり合えないですか。もう少し詳しくお聞きしたいのですが、中高生のときはどんな学生生活を送っていたのでしょうか? 

中学の頃で思い出すのは、やっぱりBBSのことですね。

 ——懐かしい! 前略プロフィールとかではなく、学校の掲示板ですか?

はい、そうです。そこに僕の悪口が書かれていて。

——ケンカした相手に書かれたとかでしょうか。

いえ。何かイザコザがあったとかではないんです。なのに悪口を書かれていて。嫌いじゃない人からいきなり拒絶される。それが辛かったです。

——何かした訳じゃないのに拒否されたんですか…。

存在してるだけで否定される感じですね。僕、その頃にクラスのみんなから「奴隷」って呼ばれてたんです。

——奴隷!?

僕、みんなに優しくしたいから色々していたんです。掃除とか。そうしたらいつの間にか「奴隷」って呼ばれるようになっていて。

——自分がそう呼ばれているって、どこで気づいたんですか?

どこでっていうか、直接言われるんですよ。奴隷って。奴隷って書かれた紙を机に貼られたりもしました。

——完全にいじめですね。

僕は善意でやっていたんですけどね…。それを仇で返されたというか。それがとにかく耐えられないくらい辛かったです。

——その頃家はどうでしたか?

父と母が不仲で。あんまり愛のある家庭とは言えなかったですね。
でも姪っ子…僕の姉の娘たちが7人いて。

——7人も!

はい(笑) その子たちの世話をしているときは楽しかったですよ。ただちょっと忙しすぎて、子供産んでいないのに、育児ノイローゼになりかけましたけど(笑)

 

作品と共感しあえたときだけが唯一孤独じゃない

f:id:don_cry:20170806135209j:plain

——学校でそんな扱いを受けて寂しくなかったですか?

いや、寂しさは感じなかったですよ。孤独と寂しさは違うので。

——どんな違いがあるんですか?

寂しさってわりとすぐ埋められるんです。でも孤独はそうじゃない。例えば、キャバクラに行ったら寂しくないけど孤独ですよね。

——刺さる喩えですね…。一瞬でも孤独を忘れられるときってあるんでしょうか?

唯一孤独を忘れられるのは、作品と自分が繋がっているときですね。

——繋がる、というと。

「この作品は俺の為に作ってくれているんだ」と思えたとき、作品と僕とが同化するんです。それが繋がる瞬間で、その時だけは、孤独じゃない。

——例えばどんな作品と繋がったのでしょう。

彼氏彼女の事情』っていうマンガがあるんですけど、これはまさに「自分のための作品」って感じるものですね。

f:id:don_cry:20170806135213j:plain
(出典:amazon / ©株式会社 白泉社
——おぉ! 「カレカノ」! 僕も好きです! 因みに、Yくんはどういったところがお好きですか?

まず、この作品は高校生男女が登場人物の少女マンガなんですが、ヒロインの宮沢という女の子と、その彼氏である有馬という男の子がいます。そして、彼氏の有馬は小さいころ、母親からひどい虐待を受け、自分の過去を隠して生きるんです。彼女である宮沢にも。

——有馬は、自分の暗い過去を誰にも知られたくなかったんですよね

でも、宮沢に自分の本心が、自分の過去がバレてしまう。
そのとき宮沢が有馬に、「あなたはずっと、人を、愛したかったんじゃないの?」って言うんです。
そう言われて、有馬ははっと気づくんです。
「自分は虐待されていたことが辛かったんじゃない。人を愛そうとしていたのに、それを踏みにじられたのが辛かったんだ」って。

——あのシーンは僕も泣きました。有馬が救われた描写も暖かみがあって最高です。

僕は中学のときに奴隷と呼ばれていました。でも本当に辛かったのは、みんなのために頑張っていたのに、それを仇で返されたことだったんです。
でも、そんな自分の気持ちをこの作品が見つけて、抱き締めてくれた。モヤモヤしたものが晴れて、救われた気分になったんです。

——Yくんの過去があるからこその感動ですね。言いようのない不安のようなものにカタチを与えて、自分を救ってくれる。僕も、そんな力がある漫画だと思います。

 

「自分がなくなる」至福の熱狂

f:id:don_cry:20170806135216j:plain

——他にも「この作品は俺のために作ってくれた」って思えた作品があれば教えてください。
色々あるんですけど、『地の底の天井』『バガボンド』『3月のライオン』とかは好きですね。

——その3つは何か共通点が?

登場人物がみんな、各々の理想に向かって全力でひた走るんです。でもそれがバラバラなんだけど、バラバラじゃない。

——どういうことでしょうか?

例えば、『3月のライオン』の11巻。

f:id:don_cry:20170806135219j:plain
(出典:amazon / ©株式会社 白泉社
主人公でプロ棋士の男子高校生、零くんが「自分は志を同じくする人たちと一緒に進んでいるんだ」、っていうことに気づくシーンがあって。そのシーンとかが特に好きなんですよね。

——ああ、僕もそのシーンは大好きです…! 常に孤独で、でも必死に生きてきた零くんが、いつの間にか同じ高みを目指して進む同志に囲まれていることに気づく。確かにみんなバラバラには努力してる。でも、進む先、愛しているものは同じ。身震いします。

そのとおりです! そんな風に人と溶け合う瞬間に、僕は孤独を忘れられるんです。

——もしかして、ご自身にもそういう経験があるんですか?

1度だけ。高校のときに入っていた吹奏楽部で経験しました。

——楽器弾けるんですか!

全然うまくないですけど(笑)。
でも、練習は人一倍していました。そのせいで部内では浮いていましたね。朝練とかも1人だけでやっていましたし。

——他の部員はYくんほどの熱量がなかったんですね。

そうなんです。
でも、練習でみんなと合わせて演奏したときに、その瞬間が来たんです。

——全員が一体となる瞬間、ですか。

はい。その時は、呼吸ができませんでした。

——文字通り息をするのも忘れていた。

だから、終わったらすごいゼーゼー言ってました(笑)
僕の求めていた「完璧なもの」がそこにはあって。全員がそれを共有していたんだと思います。

——映画の『セッション』のラストシーンみたいですね。

まさにそれです。全てが溶け合う瞬間というか。

——そういう瞬間を感じさせてくれるのが、「自分のための作品」なんですね。

はい。『バガボンド』とか『地の底の天井』もそうなんです。自分と他との境界がなくなる瞬間が最高ですね。そういう作品はこれからも探していきたいです。

 

——————————

終始笑顔でインタビューに答えてくれていたYくん。

けれど、彼の口から出てくる言葉は鋭く、重い。決して明るくはない過去の体験から語られるYくんの肉声が、聞き手の僕らにずっしりとのしかかってきた。

でも、アニメやマンガはそんな彼を救い、生かしてくれた。
彼にとって、自分のための作品とは、ある時には自分自身の辛さを言葉にして、抱き締めてくれるもの。そしてまたある時には、自分と他との境界がなくなり、全てが渾然一体となる至福をもたらすもの。Yくんは孤独であると同時に、理想を求める力が強い人だ。そんな彼だからこそ、本当に孤独を癒す忘我の熱狂に強く憧れるのだろう。

「寂しさ」ではなく「孤独」。
孤独も、絶望も、きっと避けられない。
でも、何度だってそこから救ってくれる作品があるからこそ、Yくんや僕たちは、アニメやマンガに惹かれ続けるのかもしれない。

(執筆:三宅 編集:ノダショー)